牙龍−元姫−
放課後の教室。早苗は忘れ物をしたと学校に取りに戻った。私もそれに付いていった。
廊下には点々と灯りが付いているだけで薄暗く「怖いね〜!」なんて言いながら笑い合った。
これが私が最後に見た早苗の笑顔。
これが私と早苗が笑い合いながらした最後の会話。
教室は一ヶ所だけ灯りが付いてあった。そこは自分たちの教室。私達は眼を合わせて首を傾けた。なんでここだけ付いてるの?と。
早苗が手を掛けたとき中から声が聞こえてきた。それは男子の声。
『早苗のやつお前のこと好きみてえだぜ?』
早苗―――――突然自分の名前が出たことに早苗はビクッと肩を揺らした。
‘早苗が好きな人’それなら林くんも中にいるの?
『まじでッ!?』
『ヒューヒュー!』
『モテる男は罪だな!』
囃し立てる男子の声が聞こえる。教室の中から灯りが漏れ廊下を少しだけ照らす。
騒がしい教室とは裏腹に廊下は静かだ。早苗も息を潜め中の様子を盗み聞きしているようだ。
私はこのままここにいていいの?と扉と早苗を交互に見つめた。そうしている間にも教室の中での会話は続けられる。
―――――後にここで無理矢理にでも早苗の手を掴み逃げ出しておけばと何度後悔した事か。