牙龍−元姫−
その蟠りにモヤモヤした気分になったが気分を切り替えるために、それを振り切った。


机に肘をついて響子を見つめる。あ。ネイル欠けてる。そろそろネイルサロンに行かなきゃね。響子も行くかしら?――――――と。そうそう、忘れてたわ。




「ねえ響子」

「ん―…?」

「さっき財布忘れたのにどうやってイチゴミルク買ったの?」

「………あ」

「………?」




響子は私の質問に料理本を捲る手を止めて躊躇いがちに首をコテンと横に傾けた。話すことを悩んでいる様子。そんな表情も可愛いわ―――――――――じゃない。




「怒らないでね?」

「ええ」

「ほんとに怒らないでね?」

「怒らないわ」

「ほんとに?」

「怒らないってば!」




しつこい!と響子に一喝すると私はパックに刺さったストローを口に付けて珈琲を飲む。


きっと大方。誰かに奢って貰ったとかでしょう?響子が自販機の前で困ってるんだもの。手を差し伸べる男はごまんと居るわ。




「お、奢って貰ったの」




ほらね。


当たり。どうせ響子に媚売る女か優男アピールをしたい男でしょ?響子は薔薇を手渡されて告白される女だからね。律儀に花を花瓶に生ける響子にも呆れるけど。













「C組の橘寿々さんに奢って貰ったの」








ッブシャ――――――!!!!!!!!




紅茶が口から吹き出た。





え。なに?この子いま何て言った?


思わず噴き出してしまったタラタラと口元から紅茶が零れる。私は目を見開き、オロオロと目を泳がせる響子を凝視した。
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