牙龍−元姫−
「しっかり掴まっといてね」と、言われて振り落とされないように腰にギュッとしがみついた。
「あはー。やべー。これ役得すぎる。毎日バイクで来よっかなー」
「…?どうしたの?」
突如嬉しそうにニヤつく緑川君を後ろから覗き込む。緑川君は上がる口元を隠そうともせず言う。
「んー。響子ちゃんに引っ付いて貰うと良いことが沢山あるんだよ」
「…え?」
“どうして?”と言おうとしたけどそれを聞くことはなかった。
私より里桜のほうが反応が早かったからだ。
輝君のバイクに跨がる里桜は緑川君にヘルメットを投げつけた。
それもかなりの豪速球。後ろに乗る私への配慮もすこし考えて欲しいと思った。
「要らないことを響子に吹き込むな!この変態が!」
「痛ッ!ちょっ、里桜ちゃん!メット投げるとか凶器だって!痛いんだけど!」
「うるさい!汚らわしい変態め!響子をそんな目でみてたのね!気持ち悪い!響子、いますぐ流から離れなさい!」
「…え?」
「ちょっとー。鬼畜すぎー。俺様の癒しとらないでよー。響子ちゃんの胸が当たってまじ気持ち良いんだけど」
「鳥肌が…ッ!」
「…里桜っぺ俺様まじ泣くよ?」
「勝手に泣けよ変態が」
言い合う2人を尻目にいまの状態に目を向けてみる。
ギュッと緑川君の腰に腕を巻き付けているこの状態は、かなり密着している。それに―――――…
緑川君の“良い事”の意味も里桜の“変態”の意味が鈍い私でも漸く理解できた。
それが分かった瞬間、恐る恐る緑川君から身体を離す。急に距離を取る私に緑川君はギョッとした。
「えっ!?なんで響子ちゃん離れるの!?」
「当たり前でしょ?アンタがキモいからよ。響子が正しいわ」
してやったり顔の里桜とは裏腹にショックが隠せていない緑川君。何だか私が悪いことをした気分になってしまう。
だけど、気づいてしまった以上もう一度引っ付くのも抵抗がある。胸が当たっていたことに緑川君はウキウキしていたらしい。