牙龍−元姫−



ひとつ言えば僕は



確かに“愛人の子”



でも愛されていない訳じゃない。母さんも父さんも僕を優しく育ててくれた。



当時“愛人”だった母さんは現在正式な妻の立場にいる。



端から見れば前の妻を蹴落としたようにも見えるが、実際は遠の昔に本妻と父は離婚していた。



それは父さんが母さんを愛していたから。



妻になって欲しいとせがまれた母さんは迷った挙句“今はまだ”と渋り愛人の枠に収まったらしい。



いつかは結婚―――‥と言うときに生まれたのが僕だった。



“愛人”と言っても事実上は妻そのものだった。



簡単に言えば内縁。



しかし周りから見れば“偶々出来た子の為に仕方なく愛がないまま結婚した出来婚”と見える。



それに父さんも母さんも苦しんできた。僕のせいで。



異人の血も混じり、ましてや愛人の子。



まるで異端児そのものだと虐められ、風当たりも強かった僕以上に母さんと父さんは苦しんだ。



と言っても僕は然程気にしてはない、
でも何故か母さんも父さんはそれを強がりだと勘違い。



ひねくれた僕の思考に気がつくことはなかった。



今も昔もこれからも。退屈な時を過ごすとばかり思っていた。



そう、過去形で。



戒吏と出逢ってからは一変。いままで内に溜めていたものが浄化したかのように僕は変わった。



柔らかくなったし、負の感情ばかりではなく正の感情を表に出すようになった。



そして生活も一転。



世間一般からは“不良”と呼ばれる分類なんだろうけど、それでも良かった。



僕がこんな道を歩んでいるは誰も咎めなかった。寧ろ喜んだ。僕が変わったことに。
何だかんだアイツといるの、楽しいし、
止めていたとしても変わらないけどね。



“ここ”が僕の居場所だから。



───────────
───────
────
< 595 / 776 >

この作品をシェア

pagetop