牙龍−元姫−





「そんなに面白いの?」

「庵も読んでみろって!まじハマるぜ?なぁ蒼衣!」

「…お前も読んだのか?」

「まあな〜。おもしれえよ?俺は遼に無理やり読まされちまったんだけどよ〜結構面白かったぜ?」

「だろ?俺様直々に戒吏にもお薦めしてやるよ」

「威張んなそこの金髪!まず遼ちんに漫画上げたのアタシだし!」





盛り上がる6人。たかが1つの雑誌でこれだけ盛り上がる彼らは珍しい。全員で会話することすら珍しいのに。



あれほど漫画家になりたいと懇願していたのにホラーだったなんて夢にも思わなかった。





「一回響子ちゃんも読んでみな?面白いよ!」

「ま、また今度ね?」





そして私は大のホラー嫌い。想像しただけで悪寒がし、鳥肌が立つ。ホラーなんて描いた早苗を怒りたくなった。



少女漫画に掲載される恋愛系とか、早苗なら青春系の漫画か、少年漫画類の熱い闘いを繰り広げる話かと思っていたのに…



なんて考えていると庵が雑誌から私に視線を向けた。





「響子も友達なんだよね?猫田って子と。いつから友達なの?」

「―――小学生かな」





そう。友達がいない私にできた、初めてのお友達。



出逢いはゆっくり、別れは突然。今日逢えたことが、まるで奇跡のようだった。





「小学生!?」





寿々ちゃんは目を見開いた。それほど昔からとは思っていなかったみたい。



寿々ちゃんは勿論皆には早苗の事は一度だって話した事はないから不思議そうにしている。そんな皆が可笑しかった。だから…





「小学生のときに早苗と出逢ったの。あの頃の――――」





独りぼっちだった頃の自分を思い出しながら、ゆっくりと語りだした。



別に話さなくてもいいと思う。今までも身の上を話そうとは思わなかったんだから。だけど…



もしかしたら私は今日早苗に逢えた喜びを誰かに伝えたいのかもしれない。共感して欲しかったのかも知れない。



そんな私に皆は黙って耳を澄まして話しを聞いてくれた―――‥










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