牙龍−元姫−





「でも掃除しなきゃ不衛生だよ」




私は再度部屋を見渡しながら言う。きっと物の片付け以前に掃除機も掛けてないはず。埃だらけだから。



その言葉に戒吏は…





「…お前が手伝うならやる」

「わたし?」





何で私?と思った。



わたしが居る意味が分からない。掃除の名人と言う訳でもないし、特別得意なわけでもない。



顔を傾げると同時に栗色の髪が横に垂れる。んん?と悩みながらも流石に部屋の汚さにはドン引き。だから…





「別にいいよ」





掃除くらいなら、と思った。



しかし次の瞬間。



戒吏の本当の目的が分かった。





「なら響子はまた此処に来るってことだよな!?」

「…え?」

「だって掃除手伝ってくれるんだろ?」





――――そういう事か。



私は右に座る戒吏に視線を向けると、珍しく笑う戒吏。



嵌められた気分になった。



きっと用事がないと此処には来ないと分かっていたからだ。掃除はただのこぎ付け。



掃除をしないといけないのに掃除がオマケだなんて少し複雑な気持ちになる。





「俺も頑張っちゃお〜」

「僕も掃除頑張るよ」

「俺様直々にやってやるぜ」





続けて、私の逃げ場をなくすかのように追い討ちをかけてくる3人。それに加えて、





「まじで!?響子ちゃんが掃除すんの!?整理整頓とか大嫌いだけどその時はアタシも来よーっと!」




ニカッと笑う寿々ちゃん。





「また一緒に来よう!」





その清々しいまでの笑顔に私には頷くしか選択義がなかった。








――――――その約束に少し胸がむず痒くなった。



たとえ姫じゃなくても皆と要られていることがもどかしかったのかもしれない。



いまだにムズムズする胸を擦るもそわそわしてしまい、優しく微笑された―――――…







< 623 / 776 >

この作品をシェア

pagetop