牙龍−元姫−
「猿のくせに調子乗ってんなよ。これだから野生の猿は困るぜ」
ハッと鼻で橘さんを嘲笑う。その目が覚めるほど眩しい金髪にも見覚えが合った。
「うっさいわ!おたんこなす!遼ちんはどっか行け!帰れ!猿を罵るとは何様じゃボケ!お前も昔はアウストラロピテクスだったんだぞ!猿を馬鹿にすんな!」
「ああ゛!?助けてやったのに何だその言い方は!さっさと動物園の飼育員に捕獲されちまえ!お前を野放しにしとくから問題が増えんだよ!」
「はいいいいいい?アタシが助けて貰ったのは戒くんですけれどもおおおお?勘違いしないで下さいますうううう?これだから自意識過剰は嫌なんだよねええええ」
「表出ろや。いますぐ息の根止めてやる」
――…気づいているはずなのに。
みんな私に気づいている筈なのにこっちを見ようとはしない。皆、いつも通りだ。
「おい」
すると直ぐ様低い声が耳に届いた――――内心ビクつく。私が呼ばれているのかと思ったから。でも私が呼ばれた訳ではなく呼ばれたのはチンピラの2人。
「は、はい!何でございましょうか!」
戒吏に呼ばれた男は、先ほどとは態度が一変。牙龍総長に逆らう程馬鹿じゃないんだろう。態度が違うのは明白だった。
「いますぐ、失せろ」
地を這うような声が鼓膜を揺さぶる。
別に私に対して発されたワケではないのに、凄く恐怖心があった。僅かに指先が震える。
チンピラの男達は情けなく『失礼しましたあああああ』と泣き叫びながら逃げるように店を後にして行った。