ふたつの背中を抱きしめた

2.背徳の審判





甘い夢が醒めれば、

そこに待つのは目の逸らせない現実。


夕方になる前にマンションに帰った私は、シャワーを浴び出勤時間までベッドに潜った。

どんなに寝ても眠れるのは、現実から逃げたい証拠。

でも、

逃げちゃ駄目だ。

私は今日これから待ち受けるコトを考えながら、静かに目を閉じた。



夜勤で出勤して来た私は、ロッカーで身仕度を整える前に園長室へ呼ばれた。


途中、廊下ですれ違ったボランティアさんが驚いた表情で私を見ていた。


「失礼します。」

部屋に入ると、今日は静岡に一泊してくるはずの園長が椅子に座って私を待っていた。

「おはよう、櫻井さん。仕事の前に呼び出してごめんなさいね。」

そう言って園長は私に向かいの椅子に座るように促した。


椅子に座って俯く私に、園長は穏やかに話し始めた。

「加古さんから報告を受けたの。」


覚悟していたとは言え、体に緊張が走る。


「確認させてね、櫻井さん。

加古さんの報告に…『柊くんが寝ている貴女にキスをした』って報告に、間違いは無い?」


私は唇をギュッと噛み締めながらコクリと頷いた。


園長は静かに瞬きをし、一拍置いてから口を開いた。


「もうひとつ確認させてちょうだいね?

『櫻井さんは寝ていて何も知らない、俺が勝手にやっただけだから』って、柊くんから夕方電話があったの。

…櫻井さん、柊くんの言葉に間違いはないと思っていい?」


………!!


私は思わず俯いていた顔を上げた。

柊くんは、すでに動いていた。

私を守ろうとして。

一生懸命、守ろうとして。

「…なんで…柊くん…」


私は口の中で彼の名を呟いた。


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