ふたつの背中を抱きしめた




やっと終えた食事の食器を洗っていると、柊くんが

「真陽、いいモノ見せてやる。」

と、ベランダから手招きした。


ベランダと言っても人ひとり立つのがやっとの狭さで、私は部屋の中から首だけ窓の外に出した。

「これ、これ見て。」

柊くんが指差したのは小さな小さなプランターに植えられた植物だった。

「…これは、トマト?」

「当たり!まだ実が付いてないのによく分かったなぁ。」

「柊くんが育ててるの?」

「そう。たまには新鮮な野菜とか食べようと思って育ててみたんだ。」

柊くんのそのなんとも個性的な理由に私は思わず吹き出した。

「あはは、そっか、採りたてだもんね。」

柊くんは自慢げにニーッと笑ってプランターを私の前に持ってきた。

「トマト出来たらさ、真陽にも食わしてあげる。絶対、美味いよ。」

「ありがとう、楽しみにしてるよ。」

「だからさ、…また、部屋来て?
トマト食べに来てよ。」


そう言った柊くんは

嬉しそうで、でも不安そうで、

その黒い瞳にじっと私を写していた。


----約束も出来ない。

なにも出来ない。


でも、

刹那の喜びなら、与えてあげられる。



「また来るよ。採りたて、食べさせてね。」



偽りの時間の、

真実なら。


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