ふたつの背中を抱きしめた
けれど、園長の口から飛び出したのは私の思ってもいない言葉だった。
「…ごめんなさい、櫻井さん。私のせいね。」
驚いて、下げていた頭をバッとあげた。
園長は悲しそうに微笑みながら、私を見ていた。
「柊くんの心を開いてとお願いしたのは私だものね。彼の全てを押し付けた、私の責任よ。」
その言葉に私は慌てて頭を振る。
「そんなワケありません!この関係を選択してしまった私の責任です!」
そして今度は穏やかに園長が首を振る。
「そうなる可能性は充分考えられたはずなのにね。健全な若い男女ですもの。特に柊くんが貴女に異性として心惹かれる事は容易に考えられたわ。
それでも私は、貴女に柊くんを託してしまった。貴女なら、貴女のその慈愛精神ならきっと柊くんを笑顔に出来ると思って、ね。」
園長は自らを悔いるように一旦目を伏せて話を続けた。
「…危険だと思いつつ、結局私も柊くんの笑顔を見たかっただけなのかも知れないわね。
自分に出来なかった事を危険と分かっていながら貴女に託した私の責任よ。」
そう言った園長の言葉の端々に、哀しみが浮かんでいる。
それは、きっと柊くんに対する罪悪感。
幼かった頃の柊くんを救えず
そして今もまた、彼を救いの無い道へと導いてしまった
園長の、…罪。