ふたつの背中を抱きしめた
もう、会ってはいけない。
頭では分かっていても、私は明確にそれを柊くんに告げるコトが出来ないでいた。
1週間ぬくもり園に行けなくなった柊くんは時間を持て余しているのもあって頻繁に電話を掛けてくる。
もちろん、それ以前に不安なのがあるのだろう。
私がいきなりこの関係を断ち切ってしまわないかと。
「自然消滅とか狙っても無駄だからな。そしたら毎日電話かけてやる。」
「柊くん、それじゃストーカーだよ。」
私はクスクスと電話に向かって苦笑いを零した。
誰もいない部屋に、私の笑い声だけが響く。
柊くんからどんなに着信が来ても、私は家で、しかも1人でいる時にしか電話に出なかった。
ただでさえ宙ぶらりんな状態をこれ以上悪化させたくなくて、私は慎重になっていた。
けれどそれは余計に柊くんを焦らす。
「もー、会いたい、会いたい、会いたいっ!会いたいよ、真陽~!」
電話の向こうでジタバタと駄々を捏ねる柊くんが容易に目に浮かぶ。
「…私だって会いたいよ。けど…」
私が言葉に詰まると、柊くんは咄嗟に軌道修正する。
沈黙の後に別れを切り出されるのを怖がっているからだ。
「じゃあ会うのは我慢するから、ちゅーして。」
「へ?ちゅー?」
「そう。よくドラマとかであるじゃん。電話に向かってチュッってするやつ。」
「えー!ヤダよ、恥ずかしい!」
「なんだよー!いいじゃんそんぐらいー!」
「電話でチュッって…柊くん若いのに発想がオッサンくさいよ…」
「な、なんだよ!オッサンとか言うな!真陽なんかちんちくりんのクセに!」
「ちんちくりん言うなー!!」
まるでじゃれ合う子犬のように、私達は電話越しに言葉で絡まり合った。