ふたつの背中を抱きしめた



8月に、隣の県のお祭りに行こうと

私達は決めた。


遠方からわざわざ見に来る人はいないような小さなお祭りだけれど、地元ではそれなりに盛り上がっているような。

そんなお祭りを、私達は選んだ。



誰も知っている人がいない場所で

人混みに紛れ

刹那の恋人でいられるような

そんな場所を私達は選んだ。



誰の目にも届かない。

きっと、神様にだってみつからない。



電車で1時間ほどのその場所に、私達は時間をずらして待ち合わせを決めた。


こんな面倒な手順を踏むコトさえも、柊くんは全く意に介さなかった。



「カレンダーに花丸付けたんだ。楽しみ過ぎて、夜眠れないよ。」

「柊くん気が早い。まだ2週間も先なのに、寝不足で身体壊しちゃうよ。」


電話越しに柊くんはとてもはしゃいだ。



2人で、お祭りに行く。


たったそれだけのコトが、柊くんの今までの人生で1番楽しみな日になる。


その日、柊くんはどんな笑顔を見せてくれるんだろう。


それを考えると、私の顔も自然と綻んだ。

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