ふたつの背中を抱きしめた



月の登り始めた夜の19時。

帰宅すると既にリビングには灯りが点いていた。

扉を開けると、着替え中の綜司がネクタイをほどきながら私に微笑みかけてきた。

「おかえり、真陽。」

「ただいま。ごめん、買い物してたから遅くなっちゃった。すぐ晩御飯作るね。」

「慌てないでいいよ。僕も今帰ってきたところだから。」


そう言いながら綜司は着替えの手を止めて、私から買い物袋を受け取った。


その瞬間、ふっと近付きそうになった距離を私は後ずさって遠ざかる。


「ねえ、綜司。お腹すいてる?」

「んー、少しね。なんで?」

「私、今日汗掻いちゃったから先にシャワー浴びてきていいかな。」


にこやかに頷く綜司に踵を返して、私は浴室へ向かった。


柊の残り香を消すために。

浅葉綜司の婚約者に戻るために。


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