ふたつの背中を抱きしめた
そんな私の様子を見て、柊くんが急き立てられるように喋る。
「なんで、あんたはいつも怒らないんだよ?いっつもいっつも。
迷惑かけても、バカって言っても。
なんで、どうして怒んないんだよ?」
「…だって。柊くんは怒られるようなコトしてないもの。間違ったコト、してない。」
バラバラと傘に強く降りつける雨の音が、煩い。
「…さっきのコトも?」
「理由が、あるなら。」
雨の音って、こんなに煩かったっけ。
「…どうして……」
「え、何?雨の音で聞こえない。」
それでも柊くんは声の大きさを変えることなく、言った。
「…どうしてあんたは…櫻井さんは…そんなに俺のコト、受け入れてくれるの…?」
泣きそうな顔で、そう言った。
ああ、
雨の音が煩い。
煩い。
「…だって、柊くんは仲間だから。同じぬくもり園で働く仲間だもの。だから、私、柊くんを信頼してる。」
--------これで、いいんだよね?
ね、園長。
私、間違ってないよね?
ね、綜司さん。
ザアザアと耳障りな音の中で、立ち尽くすように、柊くんの脚が止まる。
その瞳を、絶望の色に染めながら。
「……俺、あんたのコト、大っキライだ。」
一瞬、口角を歪ませて笑ったと思った柊くんの顔から
次の瞬間
大粒の涙が、落ちた。
驚いた私が、傘を落としたせいで
その涙は降りつける雨と交じり合ってすぐ分からなくなった。
そうして柊くんは
雨の中を1人駆け出して行った。
1人残された私は、馬鹿みたいに雨の中でただ立っていた。
落とした傘も拾わずに。
「…他に、なんて言えば良かったのよ…」
ひとり呟いて俯き、唇を噛み締めた。
雨はノイズのように、いつまでも降り続く。