幕末オオカミ


「しかしどうして、芹沢と新見にもののけがとり憑いていると知ってたんですか?」



あたしは素直な疑問を土方副長に投げかける。



「お前、先月半ばの騒ぎを知ってるか」


「先月?」


「会津藩と薩摩藩が、尊攘派公卿と長州勢を御所から追放しただろう」


「あぁ、はいはい、風の噂で聞きました」




江戸城の大奥にいたあたしには、関係なかったけど。


たしか、公武合体派が、尊攘派が無理に帝に※大和行幸させようとしたのに腹を立てて、尊攘派公卿たちを京から追い出したんだよね。



「そのとき俺たちも会津候から要請があって、出陣したんだがな。

御所の警備の会津藩士たちは、そんなこと聞いてねぇって、俺たちを追っ払おうとしたんだ」


「えぇっ」


「まぁそれは、伝達が遅れたせいだったんだが。

その時芹沢が、怒り狂ってな。

警備の者たちの抜き身の槍を前に、鉄扇一本で向かっていった」


「はぁ!?」



鉄扇って……鉄の扇だよね?


そんなもので、槍に向かうなんて……。



「そのケツから、タヌキの尻尾が出てた。
怒りで我を忘れたせいだ」


「えー!?」



※今の奈良県にある春日社に、攘夷祈願に行く事
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