情炎の焔~危険な戦国軍師~
「三成様、帰って来ませんでしたね」


褥の上に体育座りになって私は左近様に言う。


「友衣さんはずいぶん殿のことを気にしますね」


「え?」


意外な言葉が彼の口から出たので驚いてしまった。


「あ、すみません。主の帰りを気にするのは当然のことなのに」


左近様はいつになく恥ずかしそうにしている。


「いえ」


「ただ、あんたの口から何度も他の男の名前が出るとどうも…」


何やらぶつぶつ言っているが、私にはばっちり聞こえていた。


「やだ、可愛い。左近様が嫉妬なんて意外♪」


わざと変なテンションで言ってみる。


「俺が可愛いだなんて。男をからかわないで下さいよ」


少し困っている彼も可愛い。


「左近様はいつも女をからかってるんだからいいじゃないですか」


そういえば前にも佐和山城で似たような会話をしたな。


あの頃が懐かしい。


「俺がからかうのは友衣さんだけです」


「またまたぁ。本当ですか?」


「純粋で可愛らしい反応をするのはあんただけですからね」


「もう!またそういうことを恥ずかしげもなくぬけぬけと言うんですから」


「とか言って、まんざらでもないって顔してますよ」


「嘘っ」


思わず頬に両手を当ててしまった。


「ほら、そういう反応」


そう言う左近様は、いたずらが成功した時の子供みたいな顔をしている。


「あ、またからかいましたね」


「いいじゃないですか。俺達の仲でしょ?」


「どんな仲ですか」


「そうですね。褥の上でお互いの心も身体も知り尽くした仲とでも言いましょうか」


「なっ…」


「ははは、そんなに真っ赤になることないじゃないですか。やっぱり友衣さんをからかうのは、やめられそうにありませんね」


私達は夜が更けるまでそんな調子で戯れていた。


しかし、三成様は帰って来なかった。
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