フクロウの声
「総司の代わりか・・・。
 そうだな、不足はねえ。
 総司はいねえ、近藤さんも撃たれちまうで、
 こっちは人手不足なんだ。」
 
土方はふっと優しげな声をかけた。
マオリは顔をあげて土方と視線を合わせた。
 
役者のような涼しげな顔がかすかに目を細めた。

「一身に務めさせていただきます。」
 
マオリは深々と頭を垂れた。

ぞろりと並んだ隊士たちの前にマオリは立った。

傍らでは厳しい面立ちで土方が立ち、
その横では永倉が難しそうな顔をして、あごを掻いている。

「本日より、一番隊組長の代理をこの仲村織之助が務める。
 知らねえ顔だと思うやつも多いと思うが、
 仲村には今まで新撰組の監察方で影の働きをしてもらってきた。
 腕は確かだ。」
 
よく通る声で、土方が隊士たちにマオリを紹介した。
 
少年のように前髪を残した童顔の組長代理に、
隊士たちはざわめいた。

「仲村織之助だ。
 只今土方副長は組長代理と言ったが、
 私にはあなたたちのような屈強な戦士をまとめていけそうにない。」
 
マオリは男の声に聞こえるように少し意識して低い声で言った。

マオリの言葉に隊士たちのあいだに不安そうな空気が流れる。
永倉までもが驚いたように目くばせをしている。

マオリは大きく息を吸って続けた。

「なので、死番は常に私が務めることとする。
 みな、私のあとに続けばよい。」
 
死番とは、新撰組が見回りをする時に先頭を切る役目のことである。

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