フクロウの声
三、白い人斬り
新撰組副長土方歳三と名乗った男が向かった町は、
まさしくおれが求めていた土地だった。
 
暗雲立ち込める見えない渦が町と人間どもを覆い、
古いものとそれに抗うものたちは、夜ごとに血を流していた。
 
平穏を装う町の人間どもも、
どこか怯えた様子が見え隠れする。
誰しもが不安と恐怖を秘めたまま生きているようだった。
 
おれは大きく息を吸い込んだ。

湿った空気がマオリを通しておれの中に入り込んでくる。
その湿り気の中に人間どもの不穏な息遣いを感じる。

人ごみの埃っぽさと一緒に
まだ乾かない血のにおいが鼻腔をくすぐった。

ここだ、血のにおいのする西の町。
マオリは存外運の強い娘なのかもしれない。
おれに嬉しさが込み上げる。
思わず羽をばたつかせた。
 

土方歳三はマオリを連れて料亭に入った。
店の前には有松と看板が掲げてある。
老舗であるらしく、しっかりとした門構えが貫禄を感じさせた。

「おかみはいるか。」
 
土方は奥に向かってよく通る涼しげな声をかけた。
奉公の男が会釈をして奥にあがっていく。

宿場から道中一緒であったお供らしき隊士は、
先ほど土方の命でどこかへ消えた。

マオリは土方に隠れるように、
きょろきょろと建物の内部を見渡していた。

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