フクロウの声
するりとマオリは男を避けて、刀を抜いた。
鞘に走らせて勢いを増したまま、男の背中に斬りつける。

「ぎゃああ!」
 
男は悲鳴をあげた。

他の二人が男の名を呼ぶ。

背中を斬りつけられた男が橋の欄干につかまったところに、
マオリは刀を突き立てた。

あ、着物が汚れてしまう。
 
マオリは刀を抜いた瞬間から、
いやに冷静な自分に気がついていた。

自分よりも背丈の大きな男が刀を抜いて向かってきているというのに、
不思議と恐怖を感じない。
 
噴きあがる男の返り血で白い着物が汚れぬように、
素早くマオリは飛びのいた。

男はずるずると崩れていく。

「この野郎!どこの藩のものだ!それとも新撰組か!」
 
マオリは答えなかった。
なんと答えてよいのかわからなかった。
 
叫びながらマオリに向かってくる二人目の男の一撃を跳ね返して、
ふわりとマオリは欄干に飛び乗った。
 
月明かりを背負ったマオリの影が浮かび上がる。

いつのまにか雲が引いて、
刀で水平に斬り落とされたような半月が顔を出す。

おれはいたずらに羽を大きく広げてやった。
 
みるみるうちに二人の男の目が見開かれる。
死を前にしたおまえたちになら見えるだろう。
 
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