運転手が運転する車が佐和田学園の寮の前に着いた。

「坊っちゃん、着きましたよ。」

長年連れ添った、運転手の木村さんまでこれだからな……。
本当に男なんじゃないかって錯覚しそうになる。

「あ……あぁ。
 今までありがとう、木村さん。」

「私は、湊お嬢様の味方にございます。」

そう言って、木村さんは1枚の紙切れを私に渡してきた。

「困ったことがありましたら、ここへご連絡を。
 私の携帯の番号とアドレスにございます。」

「……え?
 こんなもの、貰っていいのか?」

だって、家を出るときに親父が
『永村家に関わる人物の情報は全て置いていけ』
って言われたから、永村家に関わるヤツの連絡先は携帯から全て削除した。
もちろん、木村さんの連絡先も。

「ですから、ご主人様には内緒にございます。
 私は10年以上も、湊お嬢様に仕えてきたのですよ?
 3年間もご連絡がないと考えると、寂しくてなりませんよ。」

そう言って、木村さんは目尻に小じわを浮かばせて、優しく微笑んだ。
この笑顔に何度助けられたんだろう。

「木村さん、本当にありがとう。
 これで3年間頑張れそう。」

私の頬も自然と緩む。

「久々にお嬢様の笑ったところを見たかもしれません。
 やはり、お嬢様は笑顔の方がお綺麗ですよ。」

「ん……ありがとう。
 木村さん、わた……俺、そろそろ行くね。」

「行ってらっしゃいませ。
 湊お坊ちゃん。」

「あぁ、行ってきます。」
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