いつか見る青
「そうだ、葵さん。先程の件、いかがいたしましょうか?」


「え?」


「携帯電話の契約。なるべく早い方が良いですよね」


玄関ホールへと到着し、スリッパを脱いで革靴に履き替えながら、神崎さんは言葉を繋いだ。


壁にぶら下げてあった靴べらを手に取り、それを器用に動かしながら。


そのナチュラルな動作は、普段からそうしているのだという事を如実に物語っていた。


やっぱ高級な靴の持ち主は、気軽にトントンしながら履いたりはしないんだな……。


「えっと、神崎さんの都合のよろしい時で結構ですよ」


そんなどうでも良い事を考えつつ、私はかしこまって返答する。


「では、早速、明日のお昼頃はいかがですか?」


「明日……ですか?」


「ええ。午前中、顧問先に顔を出す予定なんですが、ここから比較的近い場所なんです。そのあとは特別急ぎの仕事などは入っていませんし、タイミングとしては丁度良いかと思いまして」


「私の方は暇なので、大丈夫です」


「そうですか、では……」


少し考え込んでから、神崎さんは笑顔で言葉を発した。
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