××倶楽部
これじゃキスするみたいじゃん。典とはキスできないよ。私は社長が好きなんだから。典は、そういうの関係ないかもしれないけどさ。
「やめて、典! 私たち幼なじみでいれなくなっちゃうよ!」
吐息がかかるくらい近くて背中がゾクリとした。
典でも……こんな顔するんだ……
何故か切なくてドキドキさせられるような男の表情…………いつもの典じゃない。
「俺たち、ずっと幼なじみでいないとダメか?」
それって、どういう意味?
「幼なじみでいようよ……典のこと大切だよ。昨日は怒ってごめんね、心配してくれてるのよくわかったからさ。
あのね、典……私、社長とキスしたんだ……だからポーッとしちゃっただけだよ」
「芽依が違う男と……?」
典の声が震えた。手に力が入ったのがわかる。
やだ……やめて欲しい。なんでこんなに傷ついた顔するんだろう……
「典……?」
典の手が離れていく。俯くと暗闇で表情が読み取れない。「そうか」と典が小さく頷くと私は自由になった。
急に自由にされて、突き放されたみたいで、少し心許ない。
「芽依が自分から望んだんだろ?」
「うん……社長のことが好き……」
ベンチから立ち上がった典の顔はすごく悲しそう。それを誤魔化すように、うーんと伸びをして首をぐるぐると回してから肩をとんとんと二回ずつ叩く。
「よかったな。さ、帰るぞ、芽依。送ってやるから来い。ボケボケしてっと殺人犯に刺されるぞ」
「うん……」
典は、私の顔を見ないで暗い道を何かから逃れるように急ぎ足で歩いた。
なんだろう、このわだかまり。胸につっかえてる不安は……。