く ち び る


「えー、そりゃお前ら下級天使の仕事だろ」

「魂回収班は先日の豪華客船の沈没でそちらに人手を割かれ、一般の回収にまで手が回らないのです」

「……めんどくさ」

「そう言わずに、どうか。大天使様のお力が必要なのです」


 部下というのはかわいいもので、どうにも鬼の上司にはなりきれない。

 渋々とベッドから起き上がると、部下の顔がほっとしたように緩んだ。


「国は、」

「日本国でございます。一時間後に下界に降りるゲートでお待ちしております」

「りょーかい」


 早々に出ていった部下の背中を見送り、のんびりとネクタイを締め直す。


「桐島生恵(キリシマイクエ)、ね」


 この女に、死ぬ価値があるのか。

 残りのコーヒーを飲みほし、自室を後にした。


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