晴明の悪点
目玉はなく、真っ黒なくぼみだけが残っており、髪が数本しか生えていないという、
火傷のような痛ましさを感じさせる。
中でも真紅の舌が剥き出しになり、目立つ。
「あっ!」
やっと目を開いた遠子も、さすがに驚いて正座を崩した。後ろに倒れかけそうになるのを、清明が支える。
「お気を確かにされよ」
できるだけ優しい声で、清明は言った。
この修羅場の如き時の流れに逆らうような、この場に不似合いな声であった。
しかし遠子はそれで、気を落ち着かすことができた。
清明は庭に飛び出した。
「物の怪よ」
清明は物の怪に呼びかけた。
「なにゆえに、このようなことをなさる!」
果たして和解ができるのかどうかは不明瞭だったが、とにかく清明は物の怪にそう問うた。
しかし返答は無い。
「おお、憎らしい、憎らしや」
物の怪は爛れた手でその顔面を覆った。
「おおう、おおおお・・・憎たらしい」
憎たらしい。
「冴子(さえこ)、遠子、おお憎たらしや」
物の怪はむぜひ泣いていた。
目のくぼみから、どろりとした赤い雫が重みを持って落ちる。
(冴子?)