晴明の悪点
「どうかはわからないけれど、少なくとも物の怪の姿は見えるわ。私も、冴子も」
妖かしと物の怪は違う。
何が違うか。
妖かしは古来より生まれ、その大半が、己らを視て恐れるものに対する悪戯を好む。
時には人と馴れ合いもする。
物の怪は元は人。
怨念無念、恨み妬み悲しみにくれた、またはそうして死んでいった者たちの御霊が、
己に仇をなしたものに復讐をせんととり憑く。
たとえ見鬼であろうが無かろうが、その狙われた者は憑かれてしまう。
どちらかというとこの平安の都には妖かしと物の怪の比率では物の怪のほうが高い。
それだけ、この都は嫉妬と政治の執念、女の怨念に汚れ、死霊生霊が溢れ、
傍らでその魂を喰うために飢えた魑魅魍魎の妖かし達が跳梁跋扈しているのだ。
「死ぬ前に一度、冴子がこんな事を呟いていたの」
「こんなこと、とは」
「おおう、憎らしや・・・。あの物の怪と同じことを、死ぬ前の冴子はうつつの夢を視てか、そう言ったわ」
ふむ―――。
悠長にそんなことを口にできる清明ではない。
心のうちで深く考えるように一息吐き、斜め前の床だけを見つめていた。
冴子があの物の怪と同じことを言った。もしや同一のものか。
「冴子はそのひと月ほど後に、骨のようにやつれて死んでいった」
姉上、姉上。
どうか、泣かないで下さいませ。
悲しまないで、怖がらないで下さいませ。
死してもなお、私が姉上を護ります―――。