甘い唐辛子

維十は、移動中も離さなかった私の手を握り直し、車を下りた。
他の2人も下り、そのまま月蝶へと入っていく。

ピリピリした感覚はないが、みんな黙ったままだ。


入口は開いていたのに、店内には客はいなく、カウンターにオーナーが立っていた。


「いらっしゃい。霞澄ちゃんは久しぶりだね。」

「お久しぶりです、オーナー。」

「俺パスタならなんでもいい。」
「俺は任せます。」
「俺も。」

オーナーはニッコリと微笑み、奥に入って行った。


「言ってたか?ここのオーナー、こいつ、希波矢の兄貴。」
「…似てないな。」

正直な感想を言うと、海さんと希波矢さんはブッと吹き出し、笑い始めた。
「よく言われるよ。」と言う希波矢さんの目はオーナーを追っていた。


「こいつ、希波矢。その隣が海。」

「希波矢さんと海さんでいい?」

「呼びすてで構わない。」

「俺も!霞澄でいい?」

希波矢さん…希波矢の問いに、深く頷く。

維十は出されていたお冷やのコップを、右手に持ってカランと音を鳴らした。


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