この声が枯れるまで
「はーやとっ!」

「うっわ!!なんだ……兄ちゃんか。」


俺は、持ってたゲームを反射的に放し、身を縮めた。もし、お母さんが部屋に入ってきたら、ゲームしてるって事がばれるから、いつもビクビクしながら部屋にいなきゃいけない。…………にしても、兄ちゃん帰ってくるの早いなあ。


「最近、ギター弾けたか?」

兄ちゃんは、高校生になって、ちょっと変わった。中学生の時までは、子供くさかったのに、なんだか最近妙に大人なオーラが漂ってるように見えた。ワックスで固めた髪形とか、ほんのり香る、甘い香りとか、そしてがっちりした、大きな背中とか……。俺もあと何年かしたら、兄ちゃんみたいになるんだろうか、と未来の自分を想像してみた。


「んんん???」


俺は、ふと兄ちゃんの左手にある携帯がヴーヴーとなったのが分かった。しかも、しらない女性の名前が携帯でピカピカと光ってる。んーと、まだ習ってない漢字もあるんだけど、たぶんー……。


「柏木 冨美!!!!」


「あー……」



兄ちゃんは、微妙な返事をして、携帯を開いた。誰…だろう?もしかしたら……もしかしたりすると~~~……。


「俺の彼女」



やっぱり~~~~~!!!!


「兄ちゃん、彼女いんの?」

「おう。もう高校生だし、いないとまずいっしょ?」


うっひょ~~。高校生って彼女がいるのが普通?ってことか。ずいぶんすげーなあ。兄ちゃんがますます遠い存在に感じた。どんな子なんだろうな。


「あー……冨美?何?……。うん。……うん。」



携帯の向こうから聞こえてくる、高い声。女の人の声だった。俺は、そんな光景をみていると、長尾の笑顔を思い出した。


俺もリア充してぇぇぇぇぇえ!!!俺は、ぼさぼさな髪の毛をもっとめちゃめちゃにして、頭を抱えた。中学生になったら、少しは、今より大人な生活をおくりたい。はやく大人になりたい。その言葉は、いまどき、子供がよく口にする言葉の一つだ。でも、実際、大人になってみると、子供にもどりたいなど、無理な事を口にする。


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