この声が枯れるまで
小さい頃、毎週あった歌番組が好きだった。いろんな歌手が、歌詞に自分の想いを乗せて歌っているところ。幼かった俺は、その時すっごく影響された。

ぞくぞくする、このメロディー、この声。この歌詞。テレビの画面に吸い込ませそうなくらい近づきながら、テレビでながれているメロディーを口ずさんだ。

「ぅっほ~。いい!かなりいい!このCDぜってー買う!」


俺は、桜田 隼人
この頃は12歳だった。

「こら!隼人!そんな事してないで勉強しなさい!」

「へ~い。」

俺の母さんは、すっげー真面目でこっちが疲れるような、そんな性格だ。逆に俺の親父は無口で、怒ったところなんて見たこともない。こういう夫婦が一番理想的なんじゃないかって思うくらい、お互いの性格が違う。

「なによ!その返事は。もっとしゃきっと!ほら!もう一回!」


母さんはそういうと俺が見ていたTVを消した。


「っあ~~!今ちょうどいいサビだったのに!」

俺は、TVから顔をはなし、母さんの方に視線を向けた。


「勉強してからにし・な・さ・い!!!」


くっそ~~!後からするのに。くやしくて俺は唇をかみ締めた。母さんはちっとも俺の話を聞いてくれない。

「母さん、隼人は後からちゃんと勉強するって。今はTVみたいって言ってんだからいいじゃん」


ガラガラガラと、リビングのドアを開けて、俺の兄ちゃん、桜田 一輝が顔を出した。兄ちゃんは、俺より3つ上で、すっげー優しい。どんなときでも、俺の見方になってくれる。


幼稚園の頃、ガキ大将敵な存在のヤツに、ボコられそうになったときに、兄ちゃんが助けてくれたんだ。その時の、兄ちゃんの姿がかっこよくてかっこよくて……。俺もあんな風に、誰かを救いたいって思った。要するに兄ちゃんは俺の憧れだ。



「そうなの?一輝、隼人はちゃんと後から勉強するのね。」


「うん。絶対隼人は約束守るって。」

「……んじゃ、隼人TV見ていいわよ。しかーし!30分までね。」

「~~~っしゃ!」


兄ちゃんは、高校はそこらでも有名な「エリート高」母さんはそんな兄ちゃんの言うことは聞くから、こういうとき兄ちゃんが言ってくれるとありがたい。


「兄ちゃん、サンキュ!」


俺は、30分になって、自分の部屋に戻った。俺と兄ちゃんの部屋はつながっていて、小さな声で話しても聞こえるくらい、小さな部屋だ。俺は、ベットで眠っている兄ちゃんに礼を言った。


「隼人は、音楽好きだなー。」

兄ちゃんは、そういって俺をじっとみた。
< 3 / 59 >

この作品をシェア

pagetop