この声が枯れるまで
「一曲、弾いてやる。俺の新曲…いくよ?」

兄ちゃんは、ベットに置いてあったこげ茶色の使い古したギターを持って、クローゼットに詰め込まれていた楽譜を手に取った。

「それ、兄ちゃんが作ったの?」

「もっちろん。」

兄ちゃんは、軽音楽部に所属している。ギター担当。まだ高1なのに、もう文化祭で野外ライブをした。俺もその時、文化祭見にいったんだけど、すっげー迫力で兄ちゃんのバンドの世界に吸い込まれそうになった。


ボーカル、ギター、ドラム、ベース、キーボード


それぞれが自分の個性をだしつつも、1つにまとまっている。ドラムの音が心臓の鼓動となって、お客と一体になって盛り上がる。このとき、初めて音楽のすごさを肌で、心で感じた。


「んじゃ。いくぜ。」


ジャジャジャーン!!いきおいのある前奏にのせて、ラテン系のメロディーに変わった。
俺らの小さい部屋がまるで武道館のコンサートホールにでもいるような感じに襲われる。


「すっげーーー!!!」


俺は、目を光らせて兄ちゃんの、楽しそうな顔を眺めていた。



「隼人も、将来ギタリストになんの?」

ギタリスト……?俺が?初めて考えた。俺もなりたい。なれることなら。


「……なりてーな。」

「-っしゃ。んじゃ、俺と隼人で勝負しよーか?どっちが有名なギタリストになれるか、」


兄ちゃんは、そう言って、ギターを渡した。


「このギター今日から、二人で使おうか。」

「え。いいの??」



「ライバルだからな!隼人。」



”ライバル”俺と兄ちゃんが……?ぞくぞくする。


「兄ちゃんを抜かしてやるよ!!!立派なギタリストになってやる!!」




俺らは拳をあわせて笑った。



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