溺れる唇

俺と翔子が出会ったのは、大学1年の夏。

食堂で頼んだ物がややカブリし、
初めて間近で見た翔子のかわいさに
驚いた俺が天ぷらそばをひっくり返して
ぶっかけるという、
ロマンチックさの欠片もない出会いだった。

学部の違う俺達が言葉を交わしたのは
これが初めてだったけれど、
俺はそれまでにも何度か
翔子を見かけたことがあった。

茶色い群れの中を颯爽とすり抜けて行く
サラサラとした長い黒髪が印象的で、
俺はいつでもそれを目で追っていた。

遠くから眺めているだけだったその子が
以前からから仲間達の噂していた
『理工の沢田』
だってことを知ったのは、
しばらく経ってからのことだったけれど。



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