魔天戦史

魔と人と

「…どうやら、傷は癒えた様じゃの。」

あれから一週間、勇翔は何とか起き上がれるまでには回復していた。勇翔の部屋には拾蔵が見舞いに来た。

「すいません。一週間も寝たきりで…」

「何、気にするでない。魔人化は体にどれほどの負荷がかかるのか分からんのじゃからな。」

「…はい…」

「それと、緋凰とクロームは本部に帰還した…今回のことも、報告するそうじゃ。」

「…そうですか…」

勇翔は心なしか元気が無い様に見えた。

「…人をその手にかけたのは、初めてだったかの?」

「…はい…」

拾蔵の一言に勇翔は静かに答えた。

「…まぁ、当然じゃろうな。」

「…まだ、この手に感触が残ってるんです…あの時の感触が…」

「…軍に身を置くのならば、必ず通る道じゃよ。初めは皆そうじゃ。」

「…拾蔵様もですか?」
「あぁ。儂なんぞ、三日三晩吐き続けたもんじゃよ。」

「…そうなんですか…」
「…確かに、人を殺めるのは、恐ろしいものじゃ。じゃが、乗り越えなければ大切なものは…守れんのじゃ…」

拾蔵の言葉の端々に、悲しみがにじみ出ていた。

「…拾蔵様は…どうやって乗り越えたんですか?」

「…殺めた者の、命を背負うのじゃ。」

「命を背負う…」

「人を殺めねばならぬのならば、せめてその命を背負うことで、殺めた者への償いとするのじゃ。」

「…償い…」

「命を守るには、他の命を奪わねばならぬ…空しいものじゃのぉ…命を守るがゆえに命を奪う…しかしそれが軍人じゃよ、勇翔君…抗えぬ運命なのじゃ。」

勇翔はじっと聞いている。

「…まぁ、他にもやり方はある。自分に合ったやり方を見つけることじゃ。」

拾蔵はそう言って部屋から出て行った。
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