一緒に暮らそう
 紗恵は田舎に住む親友の芹菜に、携帯で結婚の予定を知らせた。彼女には是非結婚式に出てほしい。

「ええ! それっていいじゃん! 超いい話じゃん! あんたが結婚するって聞いて、あたしうれしいよ!」
 芹菜は紗恵の話を聞くなり叫んだ。
「何よ。この前会った時は、斉藤さんとはやめといた方がいいって言ってたくせに」
 手のひらを返したような発言に紗恵は呆れる。
「結婚するとなれば話は別だよ。だってさ、すごい企業に勤めるエリートサラリーマンなんでしょ、彼。あんたみたいな超庶民をまともに相手にするとは思えなかったんだよ。ねえ、紗恵。あたしがすごく喜んでいるんだから、素直に受け止めてよ」
「わかった、わかったって! ありがとう」
「それにアメリカに住むんでしょ。いいなぁ。何年間行くの?」
「3年」
「いいなぁ。そんなにアメリカに住んでたら、紗恵だって英語ペラペラになりそうだよね」
「それはどうだか」
「彼は英語しゃべれるんでしょ」
「仕事で使うことがあるみたいだから、少しは話せるんじゃないかな。研究の書き物は英語で書いてるよ」
「すごーい。やっぱ斉藤さんってエリートなんだね。この前テレビで見たけどさ。海外駐在員の奥さんって『駐妻』って呼ばれてるんだってね。旦那の仕事に伴って、海外で優雅に暮らしている奥様連中みたいよ。なんでも赴任地には駐妻同士の付き合いがあって、旦那の肩書に応じて女房の序列も決まるみたい。お嬢様大学を出た鼻持ちならないオバサンが、お局としてグループを仕切ってるみたいよ。紗恵もそんな連中と付き合わなきゃなんないのかなぁ」
「さあ、どうだかね。私は英語しゃべれないし、向こうでは仕事もする予定はないし、日本人のお友達ができたらうれしいけどね」
「紗恵もさ、どっかのお嬢様大学の卒業生ってことにして、奥様連中と付き合っちゃえばいいんじゃない? どうせ経歴なんてばれないでしょ」
 芹菜らしい他愛ない話が弾む。
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