一緒に暮らそう
化学薬品の人工的な臭いが彼の鼻腔を突く。
 これは何ごとかと一瞬思った。
 ふたば屋のガラス戸にペンキがぶちまけられていた。
 先月入れ替えられたばかりの真新しいガラス戸一面に、毒々しい色の塗料が飛び散っていた。

 手が汚れるのも構わずに、彼はその引き戸を開けて店の中に足を踏み入れた。

 その中の光景を見て彼は愕然とした。
 またかと思った。
 
 ふたば屋特製のかぼちゃコロッケが、みずみずしいシーザーサラダが、土間の床に転がっている。自慢のおにぎりは、腹の中からタラコが飛び出している。
 嫌がらせは前よりもさらにエスカレートしている。奴らはついに店の商品まで手を出してきた。

店の床に紗恵がしゃがみ込んでいた。いつものエプロン姿で彼女はへたり込んでいる。

一瞬、何と声を掛けていいのかわからなかった。

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