一緒に暮らそう
「ただいま」
 低い声が響いて、紗恵は我に返った。

 家の主が返ってきた。
 紗恵は飛び起きてソファの上に座った。居間にある北欧家具の座り心地があまりにも良いので、ついうたた寝をしてしまった。夕飯を作った後で良かった。
 まだ肌寒い春先の部屋で、暖房をつけていたら眠気に誘われた。自分としたことが人の家のソファでくつろぎすぎてしまった。

 紗恵は慌ててギンガムチェックのエプロンを着け、新多の夕飯をよそうためにキッチンに立った。
「自分でやるから。気を使わなくていいって」
 彼女の様子を見て新多が言う。

 そう言われても紗恵はコンロに火を点け、冷蔵庫の中からラップのかかった副菜を取り出す。

「今晩の献立は何」
 新多がワイシャツのネクタイを緩めながらたずねる。彼は微かに笑っている。
 その仕草がなにげに色っぽいので、紗恵は目のやり場に困る。
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