一緒に暮らそう
「何」
 新多と目が合って、紗恵は目をそらした。
「う、ううん。何でも。今夜のメニューはどうかなって思って」
「おいしいって言ってるじゃんか」
「あ、そうですよね。あはは」
 新多は怪訝な顔をする。

「ところで今週末はどうする予定ですか」
 彼女は苦し紛れに話題を変えた。
「土曜は半日だけ休日出勤だよ」
「ああ、それはご苦労様」
「君は?」
「私は街中にあるキッシュがおいしいレストランに行くつもりです。ここはグルメの町ですからね。たまには食べ歩きをしたいです」
「へえ、キッシュの店ね」
 キッシュって何だと新多は思った。
「ええ。田舎にはそういう珍しいお店はなかったし、神戸に来たら一度は行ってみたい所なんです」
「それってどこにあるのかい?」
 同居人の問いに、紗恵はその店のある場所を答えた。
「俺の職場から結構近いな」
「あ、そう言えばそうですよね」
 新多の研究所の場所は、引越し当初から聞いていた。
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