一緒に暮らそう
「あなたは彼にふさわしくない。他の女ならまだしも、あなたみたいな人が相手なら、私が彼をもらうわ」
「……」
「ねえ、何とか言ったらどうなの?」
「あなたに言うことは何もありません」
 紗恵が静かな声で言う。翔子はその冷静さに肩透かしを食らった。


「待たせてごめん」
そこへ新多が戻ってきた。

 翔子はさっきまでの柔らかい表情を作って彼を迎える。
「職場からだったの?」
「ああ。ちょっと部下から携帯に電話があって、遠心分離器のスイッチが切れないから困ってるって言ってた。でもこっちだって休日だし、相手はしてやれないから、まずはマニュアル見て自分でなんとかしてみろって返事をした」
「そうよね。あなたはデート中ですものね」
 デートの邪魔をしているくせに、翔子がしれっと言う。

 それから仕事仲間の二人は専門的な用語を織り交ぜながら、仕事の話を続けた。
 彼らの話に入っていけず、紗恵はもくもくとパスタをフォークにからめていた。
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