一緒に暮らそう
「今度」
 彼が起き抜けのしゃがれた声で話しかける。
「何」
「君の町へ遊びにいくよ」
「本当に?」
「ああ。次の週末は休めそうだ」
「休日出勤はないの?」
「ない」
「そっか。それは良かったね」
「それで、来週なんだけど、あそこの旅館に泊まらないか」
「旅館?」
「ああ。ネットで調べたら君んちの近くに評判の温泉旅館があったんだ。毎週君にここに来てもらうのも悪いし、たまには俺の方からそっちに行くよ」
「あなた、温泉に入りたいって言っていたものね。是非、そうしましょうよ」
 新多の提案に紗恵は喜んだ。
「じゃあ。ネットで予約をしておくよ」

 それから紗恵はスクランブルエッグを焼き、温めたベーグルとコーヒーを朝食に用意した。
 この家に置いておいたギンガムチェックのマットの上に、食器を載せた。

 自分の作った料理をおいしそうに食べてくれる人がいる。
 だからこそ食事の作りがいがある。
 こんなことを感じるのは、祖母と食事を囲んでいた時以来のことだ。
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