携帯電話をめぐる狂気
知らない、男だった。
会ったこともなければ、話したことなどもちろんない。
そんな男に、こんな風に親しげに話しかけられる謂われなどないのだ。
「見てたらいきなり走り出したからさ、何かあったのかと思ってびっくりしたよ」
ストーカーは、無邪気に笑う。
自分が女の恐怖の原因であるなどとは、少しも考えていないようだ。
ストーカーはしばらくにこにこと笑い、扉のすぐそばに立ち止まっていた。
唯一の出入り口を塞がれて、女に逃げ場はない。
男はふと真顔に戻ると、女の手を指差した。
正確には、女の持っている携帯電話を。