携帯電話をめぐる狂気





知らない、男だった。
会ったこともなければ、話したことなどもちろんない。

そんな男に、こんな風に親しげに話しかけられる謂われなどないのだ。


「見てたらいきなり走り出したからさ、何かあったのかと思ってびっくりしたよ」


ストーカーは、無邪気に笑う。
自分が女の恐怖の原因であるなどとは、少しも考えていないようだ。

ストーカーはしばらくにこにこと笑い、扉のすぐそばに立ち止まっていた。

唯一の出入り口を塞がれて、女に逃げ場はない。

男はふと真顔に戻ると、女の手を指差した。
正確には、女の持っている携帯電話を。

< 7 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop