鬼滅羅〈キメラ〉
少年は、微笑んでいた。
それは少しも動かない。さながら無表情のように、しかし穏やかに微笑んでいた。

まだあどけなさの残る、少しハスキーな甘い声で、少年は私に話しかける。

「母さん、疲れたでしょう?買ってきたものしか無いけれど…」

「うるせぇよッ」

私は少年の言葉を遮って怒鳴った。

「黙れ……。お前なんて、お前なんて……」

湧き上がってくる、どうしようもなく制御不能な怒りの感情に、私は震えた。
もう何年も前から、何度となく繰り返していることなのに。
それが余計に私を苛立たせた。

「お前のせいだッ。お前さえいなければ!」

自分の髪の毛を自分でひっ掴みながら、私は半狂乱だった。
壁に、拳を何度も打ちつけた。
言葉にならない声を上げ続けた。

そのあいだも少年は、そんな私の姿を、相変わらずの微笑みを以て見上げていた。
微動だにしなかったその能面のような顔が、わずかに、目を細めた。

それが視界の端に留まったとき、私は我を忘れて奇声を上げた。

「ばかにすんじゃねぇよ!!」

私は、卓袱台に乗り出して、少年の胸ぐらに掴みかかった。

少年は、やっぱりそのまま動かない。こちらを見つめたまままるで蝋人形のような静かな笑みを浮かべている。

「見ないでよ…!」

金切り声を上げながら、私は少年の顔面を右手でわしづかみにし、そのまま床に叩きつけた。
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