エゴイスト・マージ


「困る?何故でしょう?」



授業がない空き時間に
俺は校長室へと呼ばれていた。

「特定の人物だけを個人的に
教えるというのは如何なものかと」


「特別にやっているつもりはありません。
教えて欲しいと頼まれれば、教師には
断る理由が存在しません」


「無論、承知しています。
ただ、相手は女生徒とお聞きしましたが?」


ああ。成程、つまりはそれか。

誰が校長にそんな話を持ちかけたのかも
容易に想像がつく。

それで、わざわざ今日休んだってわけか。

職員室で今日授業の代行誰がするか、と
2年担当の国文の先生が零してたのを
思い出す。

「私は男女区別するつもりはありません」

「その言葉は父兄方には通りませんよ。
……お分かりでしょうが。三塚先生」

「では、今後女生徒はお断りした方が
よろしいのでしょうか?」

「随分、極論ですね。
そうは言ってません。特定の人物と
いうのがまずいと言ってるだけです」

「私でお役に立てることがあれば、
生徒には助力をおしまないつもりです」


「流石は三塚先生。
生徒からも人気があるのが良く分かります。
そこで提案なのですが――」











「こんにちは」

「……珍しいね、君がこんな所にくるなんて」

午後の授業が終わり、缶コーヒーを
飲みながら本を読んでいた。

何度か声を掛けられていたようだが
気がつかず、その声が間近に聞こえたとこで
俺は顔を上げた。

およそ、想像もつかない意外な人物が
そこには立っていた。

今日はやけに面倒臭い人物が揃うな。

「今はあの子も授業中だし、あの人も2~3日は
大阪に行くって言ってたから」

「ああ」

該当者、2名が即座に頭に浮かぶ。

「それで、どうしたの?
わざわざ僕のとこに来るなんて」

普段の白衣ではない、実にらしい服装で
立っている人物に座るよう促したが、
その女は従わなかった。

「前に忠告した筈だけど、
彼女に近づき過ぎないで」

「僕の立場から、
生徒を遠避ける事は出来ない」

「出来るわ」

俺の適当な言葉をやはりコイツは遮断する。


「貴方、自分の言動が人に
……女性にどう影響を及ぼすか、
分かっていて確信犯的にしてる傾向があるわ。

どういうつもりで雨音ちゃんに接してるの?」


「可愛い生徒の一人だよ」

途端、女はあからさまに眉をひそめた。


「あの年頃の子にとって貴方みたいな人から
言われる一言は重いのよ?
女性の扱いに長けてる三塚君からなら
ひとたまりもないでしょうね」



「自覚して貰えない?
その気がないんだから、彼女を
貴方のやり方で巻き込むのはやめて欲しいの」

その時、俺は咄嗟に何かを言い返そうとしたが
浮かんだ筈の言葉をすぐに見失い
口にはしなかった。


「君は勘違いしてるよ。
僕と月島はそういったものじゃないから」


「そうね、三塚君はきっと分からないでしょうね。
あの子が変化してること。
想いが伝わらない人を
好きになって苦しんでること」

「…………」

「あの子には、いづれ
幸せにしてくれる相手が現れる。

でもそれは、貴方じゃないわ」


いつもの如く口調は荒げる事も無く
どちらかというと温和。

だが、その目には
殺気とも取れる程の怒りが垣間見えた。





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【エゴイスト・マージ】
作品一覧にて、挿絵公開中。
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