エゴイスト・マージ
「声を掛けなきゃ気が付かない
フリをしてやろうと思ってた」


知ってたんだ私がいたこと

それなのに、
あんな酷いことを言ったの?

怒りが更に止め処なく湧き上がってくる

「サイテー!!先……っ」


ダン!!!

その音に驚く

いつの間にか間が詰められ
私は三塚に壁に追い込まれて
壁に片手を付いたその身体の下にいた

「何時も、肝心な時に居合わせるな
……偶然?それともワザと?」

息の温度が感じられるほどの距離

「……三、つか……?」

「さっきの威勢の良さはどうした」


真正面から見下ろすその顔は
先生というより
男という感じで……

途端

……視界が……捩れる
















「……しま」

「月島!」

頬が熱い

あれ?この声って三塚……?

「気が付きましたか?」

「先……生?」

ここどこ
あ、保健室か

「私……」

「倒れたんですよ、いきなり」

「え?あ、私?」

「保健室の鍵、
僕が預かってるから落ち着いたら
出ようか」

「ハイ」

何で倒れたんだろう
三塚と……神谷が……あ!

「神谷先生の」

「そうそう、
痴話喧嘩見られたんですよね」

は?痴話ゲンカ?


「そんなはず……!」

言い返そうとしたら
頭の上を軽くポンポンと叩かれた

「コラ、大人の話に子供が
首つっこむんじゃありません」

そういって笑う三塚は
いつも通りの穏やかさで

さっきまでの人物とは
とても同一とは思えなかった


アレは夢だったの?


そもそも何で
私は倒れたりしたんだろう


記憶の断片がチグハグで
どうしてもそれ以上思い出せなかった


その後も三塚は普通だった


意識を失っていたのも手伝って
私の記憶は、ますます
おぼろげになっていった

ひょっとして、
あの日科学室で見た光景は私の
見間違いだったんじゃないかと
自分の記憶を疑い始めるのに充分な程に


(アレは、何だったんだう?)

変わったと事といえば、
それ以来三塚の周りで
神谷を見なくなったことぐらいだった








「月島さん~」

自分の名前が呼ばれているのに気が付いて
顔を上げると、
教室の戸口でクラスメートの子が手
招きをしている

急にざわざわしだして
クラスの女子の半分くらいが
私を見てる気がした


何も男子からの呼び出しが
珍しい訳じゃない

注目を浴びてる理由、それは

相手が”裄埜 光”だったからだ


今まで何回も
スカウトされたという噂の容姿

公開テスト時には
必ず3位内にいる頭脳明晰さ

あと、6年連続全国大会出場中の
サッカー部、レギュラーともなれば
もう必要以上に目立つ存在で

と言いつつ私は、顔を知ってる程度で
この前の科学室の一件から、やたら
自称裄埜君フリークの玲ちゃんの
レクチャーのお蔭で、
こんな風に詳しくなったんだけど


そんな有名人に
何で呼ばれているのか分からないまま
取り合えず、その方向へと足を運ぶ

あまりに皆がこっちを向いてるのに
気遣ってか裄埜君が軽く私の腕を引っ張った

「コレ、月島さんの本が
俺のところに紛れてて
同じクラスの人に渡していても
良かったんだけど
……これが挟まっていたから」

横から見えたのはこの前の
最低最悪の物理のテストだった

(ぎゃーーーーっ!!!!!!)

「わ、わざわざありがとう」


私はさり気無く受け取りながらも
内心では絶叫していた


……助かった


いや、本当に助かったんだけど
どうせならもっと
そっと返して欲しかったよ……裄埜君


じゃぁと帰っていった後の背中越しの
ギャラリーをしょってる私は
どうしたらいいのよ……ぉ




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