愛するということ
「まだ、実感がないか・・・」
拓馬の独り言に、答えることなく後について歩いている。
俺は、たった今見た小さく丸まった瞬の背中に、何一つ言葉をかけてやれなかったコトを、後悔していた。
瞬が、もし少しでも涙を見せてくれていたら、もっと慰めてやれるのに・・・
・・・いや、涙なんて見なくても、無理に笑うあの顔で、ちっとも力のないあの瞳で、十分泣いていることくらい分かってるのに。
俺は、一体何から目を背けているんだろう――
いつも、瞬はそこにいるのに、手を差し伸べることをためらってしまうんだろう。
「………!」
ちょうど、談話室の前を通りかかった時、自販機のアップルティーに目が止まった。
「拓馬、先行ってて。さっき瞬と約束したアップルティー届けてくる。」
言いながらガコンと落ちてきたそれを、素早く取って、瞬の部屋へ走りだした。
「ああ」という拓馬の返事を随分遠くに聞きながら・・・