12年目の恋物語

「こんにちは~」



と入ってきた田尻さんは、体操服。



……そうか。



田尻さんのクラスとうちのクラスは、体育の時間、ペアになる。

男子と女子とに分かれて授業をするから、うちが女子の、田尻さんのクラスが男子の更衣室になる。

教室に戻らずに、直接、保健室に来たんだ。



見るからに元気そう。

パッと見て、怪我も見当たらない。



嫌な予感がした。



その予感通り、田尻さんはわたしの方に、真っ直ぐ近づいてきた。



もう、保健室を出ようと思って立ち上がっていたから、寝たふりもできない。



「ちょうど、よかった」



田尻さんは、そう言って、笑顔を作った。



「牧村さんと話がしたかったの。

すれ違いにならなくて、本当によかったわ」



笑顔なのに、

田尻さんの目は、まったく笑っていなかった。
< 130 / 203 >

この作品をシェア

pagetop