12年目の恋物語
14.陽菜の危機

白い天井と、愛想のない蛍光灯が目に入り、自分がどこにいるのかを思い出した。



保健室。



体育の時間、見学はやめて、寝かしてもらうことにしたんだ。

時計を見ると、4時間目が終わるまで、後数分という時間。



起きなきゃ。



そう思うのに、重い身体は、

いいじゃない、昼休みまで寝ていたら、

とささやく。



だけど、薬、飲まなきゃ。

お弁当はともかく、薬だけは飲まなきゃいけないから。



それに……

わたしが教室に戻らないと、きっと、カナがお弁当と薬を届けてくれる。



また、カナに面倒をかけてしまう。



ムリヤリ、身体を起こすと、めまいがした。

一瞬、このまま早退しようかとも思う。



ダメだ。

どっちにしても、一度、教室に戻って鞄を取ってこなくちゃ。



ゆっくり、身体を起こしている間に、チャイムが鳴った。



「あら、牧村さん、戻るの?」



養護の先生に声をかけられる。



「はい」

「……顔色悪いわよ。お昼休みは寝ていた方がよくない?」



それに、なんと答えようかと思っていると、保健室のドアがノックされた。



カナ!? もう!?



いくら何でも早すぎる。

体育の後だもの。

これじゃあ、着替える時間がまったくない。



瞬間的にそう思い、ホッとした。



カナのはずがないと思って、ホッとする。



そんなことで、ホッとする自分が、イヤになる。



カナの声を聞きたい。

カナの笑顔が見たい。

カナと前のように、おしゃべりしたい。



そう思ってしまう弱い自分は、もっとイヤだった。



カナじゃないはずだとホッとしたはずだったのに、



入ってきたその人の姿を見た瞬間、わたしの心は凍りついた。



たぶん、わたしが、今、一番に会いたくない人。





……田尻さん。
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