美女も野獣も。-Bitter,Bitter,Sweet-
適当に答えると、そのまま軽く唇を噛んで考え込む中原さん。
長いまつ毛がゆっくり上下する。
「っあー…、思いつかん!!」
けれど結果は言葉通り。
心底悔しそうな顔で言ったあと、ハッと我に返って恥ずかしそうに苦笑いをあたしに向けた。
まぁ、交渉とはいっても、入社したばかりのあたしたちに何かコネがあるわけでもなければ、所属の課も全然違う。
昨日の彼女みたいに経理課ならば「領収書の件で…」とか言って近づくこともできるだろうけど。
商品企画課の、しかもまだ雑務もまともにできないような新米が、野獣に言い寄るツテを見つけられるとは到底思えない。
野獣に抱いてほしかったら、地道にコネなりツテを広げるのが一番手っ取り早いと思う。
…あたしは絶対、ごめんだけど。
「あれ、そういえば野獣の名前、村瀬さん知ってたっけ?」
トイレを出て商品企画課に戻る廊下を歩きながら、中原さんが思い出したように聞いてきた。
もちろん野獣になんて興味のないあたしは、首を横に振る。
すると。
「野宮和人」
ご丁寧に教えてくれた。