神様修行はじめます! 其の二
『ならぬ。永久が当主となるのは決して認めぬ・・・』

負の感情の空気を全身から発しながら、お兄さんはあたし達に近づいてきた。

表情の無いミイラ化した顔を黒紫色の煙が覆う。


『当主の座は我のもの。誰にも渡さぬ・・・』


嫌な臭い・・・。

お兄さんが近づくにつれて、腐敗しきった嫌な臭気が漂ってくる。

あたしは咳き込んでしまった。

なんだろう。臭いだけじゃなくて、これって・・・


「門川君、胸が苦しいよ」

「兄の事を哀れんでくれるのか? しかし今は・・・」

「いや、そういうんじゃなくてっ」


お兄さんが痛ましくて、お気の毒で胸が痛いとかじゃ無くてっ。

現実に気管と肺が痛いのよっ。


「文学的比喩じゃなく、生物学的に痛いのっ」

あたしの言葉に門川君はハッとする。

そして口元を押さえながら、あたしの手をつかんで部屋の入り口に向かって走り出す。


「か、門川君?」

「息を止めろ!」

「え?」

「この空気を吸うと内臓が全て腐ってしまうぞ!」


えぇっ!?


腐敗の空気をまとったお兄さんが、あたし達に突進してきた。

驚くあたしを、門川君がいきなり横に突き飛ばす。

勢い余って畳に転がってしまう。


お兄さんは門川君に飛びかかろうとする。

間一髪、爪の先の差で門川君は後ろに飛んで逃れた。

お兄さんに触れられた部分の着物の生地が、ドロリと腐ってボロッと落ちた。
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