幸せになろう
エレーナは慎一の袖を引っ張った。
「最初から、全て身に付けているというのは違うんじゃないか。
エレーナがイザベラ幹部からそれを教わったのは契約失敗の後だ」
「何が言いたいんですか?」古い幹部2は、憮然とした表情になった。
「能力も、人間社会の知識も不十分なままの未熟天使が人間界に送られて来ているせいで、
迷惑している人達もいる。
天使達は、昼夜問わず相談に来る。寝ているところを起こされたこともある。
それに、壁や天井を通り抜けて勝手に人の家に入ってくる。土足でもお構いなしだ。
人間社会では、住居侵入罪で処罰される。プライバシーの侵害にもあたる。
あなた方は知らないかもしれないが、、日本の民家で土足は禁止だ。
きちんと新人教育を行って、知識、能力を身に付けてから人間界に行かせるべきだ」
「先輩方、彼の言う事は正しい」
「私もそう思います」若い幹部達は、慎一を支持するが、
「ここは、天上界。人間界のやり方を貴方に強制される理由はありません」
と、古い幹部は聞く耳を持たない。
そこで慎一は、驚くべき発言をした。
「どうしても考え直してもらえないのであれば、今後天上界との関係を見直すしかない」
幹部会は、ざわついた。
まさか、慎一がこのような厳しい姿勢を取ることなど誰が予想していただろう。
「よいではありませんか。ここは慎一の話を最後まで聴きましょう」
イザべラ幹部の冷静な一言で、幹部会が静まった。
「天使と人間、種族が違えば、当然考え方にずれが生じる。
幸福観、人生観など、いろいろなところで食い違いが出てくる。
その食い違いを埋めなければ、本当の意味での天使と人間の信頼関係は築けない。
エレーナの過去の失敗は、そのようなずれを最後まで埋めることが出来なかったために、人間との信頼関係を築くことが出来なかったものだ」
天使と人間の間に生じるさまざまなずれ。
それを修正しなければ、天上界との関係を解消する。慎一の主張はそう言い切ったものだ。
幹部達は、大幅な改善を迫られた。

 後日、エレーナが天上界の状況を聞いてきた。 
「ルーシーはまだ新人で、助けた人達が高齢で社会的に影響力がない人達が多かったこと、彼女の事は幹部会にも責任があるので処分が軽くなったそうです。
謹慎期間中に研修を受ければ、人間界に行く事が許されるそうです。
幹部達は、組織がまひしないように交替で職務権限停止処分するそうです。



< 93 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop