赤いスイートピー
昼休み時間、チエミは自分の席で柏田から借りたサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を読んでいた。
「河井。」
誰かに呼ばれ、顔を上げるとクラスメイトの佐山卓弥がチエミの席の前に立っていた。
卓弥は活発な生徒でクラスのムードメーカー的な存在だ。
彼の周りにはいつも人が集まっていた。
賑やかなクラスメイトたちの輪の中に入
らず、静かに過すチエミは、卓弥とあまりしゃべったことがなかった。
「放課後、話があるから、視聴覚室らへんにきてくれよ。」
周りに大勢のクラスメイトたちがいるのにも関わらず、皆の前でそう言って教室を出て行った。
「おっとー佐山君からの愛の告白かー?放課後が待ち遠しいねー!」
お調子者の男子が指笛を吹いてからかう。
「佐山と河井さん、久々のカップル誕生ねー。」
女子たちにも冷やかされて、教室は大騒ぎになった。
「違うってば…」
手を振り、小声で否定しながら、チエミは思わず真っ赤になる。
慌ててサリンジャーに視線を戻した。
文化祭も終わり、校舎は閑散としていた。
視聴覚室は校舎の一番端にあって、放課後は全く使われていないから、その前の廊下はカップルが内緒話をするのに最適な場所だ。
チエミが言われた場所に行くと、卓弥はまだ来ていなかった。
廊下の窓から外を見る。
見える木々は葉が落ちてすっかり冬の景色だ。
チエミの誕生日も過ぎ、チエミは17歳になっていた。
チエミは制服の白いシャツの胸元に手をやる。
そこには、細い金のチェーンに通された華奢な指輪が隠されていた。
それは柏田からの誕生日の贈り物だった。
小さなダイヤのついた指輪は、チエミの胸元の陰で可憐な光を放っていた。
廊下のつき当たりの角から、卓弥がズボンのポケットに両手を突っ込んで歩いてくるのが見えた。
チエミには、呼び出される心当たりがあった。
文化祭の手伝いをサボり気味だったからだ。
一致団結するクラスの雰囲気が少し苦手で、途中で帰ったりして、まともにやらなかった。
卓弥に一度、注意されたのに、「忙しいから。」とチエミは無視した。
熱血漢の卓弥は、今もチエミの態度に怒っているに違いない。
「河井。」
誰かに呼ばれ、顔を上げるとクラスメイトの佐山卓弥がチエミの席の前に立っていた。
卓弥は活発な生徒でクラスのムードメーカー的な存在だ。
彼の周りにはいつも人が集まっていた。
賑やかなクラスメイトたちの輪の中に入
らず、静かに過すチエミは、卓弥とあまりしゃべったことがなかった。
「放課後、話があるから、視聴覚室らへんにきてくれよ。」
周りに大勢のクラスメイトたちがいるのにも関わらず、皆の前でそう言って教室を出て行った。
「おっとー佐山君からの愛の告白かー?放課後が待ち遠しいねー!」
お調子者の男子が指笛を吹いてからかう。
「佐山と河井さん、久々のカップル誕生ねー。」
女子たちにも冷やかされて、教室は大騒ぎになった。
「違うってば…」
手を振り、小声で否定しながら、チエミは思わず真っ赤になる。
慌ててサリンジャーに視線を戻した。
文化祭も終わり、校舎は閑散としていた。
視聴覚室は校舎の一番端にあって、放課後は全く使われていないから、その前の廊下はカップルが内緒話をするのに最適な場所だ。
チエミが言われた場所に行くと、卓弥はまだ来ていなかった。
廊下の窓から外を見る。
見える木々は葉が落ちてすっかり冬の景色だ。
チエミの誕生日も過ぎ、チエミは17歳になっていた。
チエミは制服の白いシャツの胸元に手をやる。
そこには、細い金のチェーンに通された華奢な指輪が隠されていた。
それは柏田からの誕生日の贈り物だった。
小さなダイヤのついた指輪は、チエミの胸元の陰で可憐な光を放っていた。
廊下のつき当たりの角から、卓弥がズボンのポケットに両手を突っ込んで歩いてくるのが見えた。
チエミには、呼び出される心当たりがあった。
文化祭の手伝いをサボり気味だったからだ。
一致団結するクラスの雰囲気が少し苦手で、途中で帰ったりして、まともにやらなかった。
卓弥に一度、注意されたのに、「忙しいから。」とチエミは無視した。
熱血漢の卓弥は、今もチエミの態度に怒っているに違いない。