猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

「そこです」

【割烹みゆき】前回来たときは、突然押し掛けて追い出されてしまった苦い思い出のお店。

勇気を出して美桜は入り口の引き戸を開けた。

「いらっしゃいませ」

女性にしては少し低いと感じたみゆきさんの声が、今は妙にしっくりする。

「すみません……」

「美桜ちゃん」

『何しに来たの!』ってまた怒られると身構えたのに、みゆきは短くため息をついた後に意外な言葉を続けた。

「来ると思った……ううん、待ってたわよ」

「えっ」

「いいから、お入んなさい」

「あの…、今日は一人じゃないんです」

「それもわかってる、後ろで木偶の坊みたい
に立ってる男にも入るように言って」

美桜は口を開けたままその場でしばらく呆けてしまった。
みゆきがおじさまを連れて来ると想定していた事も、東堂コーポレーションの社長をつかまえて木偶の坊呼ばわりするのにも驚きだ。

「何してんのよ、寒いでしょう!」

「は、はいっ!」

美桜は慌てて東堂を促して中に入った。

「初めまして、東堂です」

東堂は神妙な顔でみゆきに名刺を差し出して頭を下げた。

受け取った名刺を見て、瞳を大きく開いたみゆきさんは、すぐに『ふん』って鼻を鳴らしてカウンターの中へ入ると顎で美桜に座るように言う。

日向のバカ!
私はいない方がよかったじゃない!

無理よ、この空気に耐えられない……


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