猫と宝石トリロジー①サファイアの真実

父と子


絢士はイアンさんの車を借りて、教えてもらった郊外にある廃墟の城に来ていた。

今日だけなのか、もしかしたら普段からそうなのか入り口の扉は鍵がかかっていて中には入れなかった。

でもそのお陰で少し離れたこの場所が、母の描いたあの夏の絵の場所だと気づけた。

絢士は少しでも母の世界を感じ取ろうと、瞳を閉じてじっとその場に立った。

ここで父と出逢い母の人生は変わった。
俺の人生もここから変わるだろうか。

「遅くなると心配するな」

エンジンをかけて、絢士は微笑んだ。
あの温かい家は懐かしく思えたし、何の血の繋がりもないけれど、二人は本当の祖父母のように思える。

「あれ?あんなの来るときあったか?」

戻る道すがら長閑な草原にポツリと立つ教会を見つけた。
今の自分は正に迷える子羊なのに、この旅では一度も何かを祈ったりしていない。
せっかくここまできたんだ、最後に何かヒントをもらえるかも知れないと、絢士はハンドルを右に切った。

表にいた現地の人に聞くと、中は自由に見学していいとの事だった。
絢士は回廊を回って中庭の景色を眺めながら、ケルトの十字架の荘厳な礼拝堂へ入った。

高い天井を見上げると遥か昔に描かれた宗教画があり、厳かな中で老女が一人祈りを捧げていたが、絢士が着席すると立ち上がって出て行った。


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